三嶺の森をまもるみんなの会の土砂流出防止マット設置活動


えこらぼ環境団体・講師密着レポート第四弾は、
「三嶺の森をまもるみんなの会」さんが10月に開催された
「三嶺の森をシカの食害から守ろう〜土砂流出防止マット設置活動」
に1日密着。その体力的にはちょっときつくも、ためになる活動を
余さずご報告させていただきます。

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集合午前6時。四国森林管理局(高知市)。マット設置作業ボランティアの皆さんが、
続々集結してきました。

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点呼を取る「三嶺の森をまもるみんなの会」事務局の坂本彰さん(右)。
この日の取材に誘っていただきました。

「三嶺の森をまもるみんなの会」の結成は2007年。
植生の豊かな三嶺の森がシカの食害により荒れ果て、生態系の破壊に加えて
山林崩壊の危険性が高まる中で、物部川源流域の森林の荒廃に
危機感を抱いた団体や個人によって結成されました。
シカ問題を広く一般に知っていただくための写真展や
シンポジウムの開催などの普及啓発、市民ボランティアを募っての森林保全、
大学の教員や学生による調査研究に取り組み、
行政とも協働して幅広い活動を展開しています。
くわしい「三嶺の森をまもるみんなの会」についての情報はこちら

元々坂本さんは三嶺の自然を守るために1975年に結成された
「三嶺を守る会」の活動に深くかかわってきましたが、
「三嶺の森をまもるみんなの会」が設立されてからは、その主要メンバー
として活動を開始。三嶺の自然保護活動は40年を超えました。

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高知市からバスに乗り込み南国市役所などを経由して参加者をピックアップ。
他地域からのバスも集結し、奥物部ふれあいプラザにて集合。

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高知中部森林管理署・署長 田村和嘉男さんからご挨拶
「お忙しい中、たくさんのご参加ありがとうございます。
三嶺でのシカの食害防止の活動も今回で24回目です。
これまで植生保護のため木にネットを巻くラス巻や、防鹿ネット張りなどやってきました。
今回は土砂流出防止マットを設置してもらいます。三嶺の植生は確実に回復しています。
が、これからもますますのご理解・ご協力が必要です。
林地は地形が急峻なので、みなさん安全第一でよろしくお願いします。
天気も快晴、折角の機会なので、視界・景色も楽しんでいってください」。

今回集まったボランティアの皆さんは総勢約80名、
山好きな方、近隣の農業者、森林管理局や流域の自治体の職員など
多種多様でそれぞれのバックボーンは違いますが、みなさん本気で
「三嶺を守りたい」と思われている方ばかりです。今回は先週の予定が
雨で順延になったので少し参加者が少ないとのことでしたが、
いつもは100名〜120名ほどの方にコンスタントにご参加いただけているとのこと。
この規模の活動を24回も続けられていることにたいへん驚かされました。

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3台のバスに分乗し、くねくね道を登山口に向けて出発。

くねくね道の道中坂本さんにお話を聞きました。

「シカが増えたことに関しては、ハンターや天敵の減少など抑制する力が
弱くなったことがひとつ挙げられます。もうひとつは温暖化により
積雪が減少するなどシカが生育する条件が良くなったことも考えられます。
いずれにせよ複合的にいろいろな要因が重なって起きた現象だと考えられます」。

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シカに皮を食べられた木。

「この活動は、2007年の11月から始まりました。
最初はラス巻き(樹木1本1本にネットを巻くこと)から開始し、
その後防鹿ネットを張る作業を続けています。作業を行う場所については、
山奥であることから現場にたどり着くまで時間がかかるという制約を受けます。
このため、2時間歩いて現場に行き、2時間作業し、その後2時間歩いて帰る
という活動パターンになります」。

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ラス巻きを施した木。ネットを巻く前に皮を食べられていました。

「これまで1回に3ヶ所ずつくらいネットを張り、合計で100ヶ所程度
防鹿ネットを張っています。アプローチの良いところはほぼ張りました。
張った場所の植生は回復してきています。

今日の作業は、土砂流出防止のマット敷きです。
作業を行う三嶺の南にあたるカヤハゲの頂上は、2008年と2009年に
防鹿ネット張ってシカが入り込まないようにしたのですが、急斜面で表土が流出し、
植生が思うように回復しませんでした。そこで、2011年と2012年に
土砂流出防止のために菰(こも)を敷いたのですが、うまくいきませんでした。
2014年にヤシガラマットを敷いたところ、土砂流出が止まり、効果がでてきています。
これまで2回行いましたが、まだ一部残っています。今日の作業が仕上げになります」。

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バスに揺られて1時間あまり、途中、みやびの丘で作業する一行を
下ろした後、本日の登山口に到着。

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避難小屋登山口、標高1300mの地点にあります。ここから登ったり降りたりを繰り返し
カヤハゲの頂上1720mを目指します。

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ぽっかり晴れ渡ってるのはいいのですが、どっからどうみてもいきなり急勾配!

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いざスタート! 登山開始!

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初心者にはとんでもない急勾配です。

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もうだいぶ登った感がありますが、まだまだ急勾配です。

汗はだくだく、足腰パンパン、やばいちょっと貧血気味な感じ…。
しかしながら、目的地につかねば取材が…、いやそれどころか
この群れを離れると遭難の危険性が…。
そんなことが脳裏をめぐり続け、体力温存のため
カメラをしまって山登りを専念することに。

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山登り前半戦最後のショットがコレ。
もう前の人の足だけを見続けることにしました。

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ヒーヒー言いながら無心で登っていくと、止まっている一団が。
私と同じく初心者の方が辛くなって、みんなで休憩タイムに入っていました。
助かった〜。

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しかしながら皆さん、ガシガシ登ってきます。
山の人はすごい体力だ〜。

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休憩地点から約30分、ゼーゼー言いながら登ると稜線に出ました。
見晴らしがいい〜。

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防鹿ネットがしっかり張られています。後ろの山並みがまたきれい。

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稜線沿いを景色を眺めながら歩きます。

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途中へばってた参加者の方も、ダブルストックで上がってきました。

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見晴らしのいいところで本格休憩。この方たち、座って休みません。
私は横になりたい…。

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参加者に説明を行う坂本さん。

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見上げる先には、山屋が愛してやまない三嶺の山並みが。

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あたりにシカっぽい足跡がありました。

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さて十分に休憩を取って、再度スタート!
この急勾配を降りきって、登りきったところがカヤハゲの頂上。
この写真の中央よりちょっと右上あたりにある茶色い土の部分が目的地です。

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アップにしてみましょう。中央より上に青いブルーシートがありますね。
あそこに置いてあるマットを担いで、左下の今回のポイントまで下ろし、
マット敷き作業を行います。

ちなみに、マットは四国森林管理局が提供しヘリで事前に空輸。
マット敷きのマンパワーは「三嶺の森をまもるみんなの会」が提供。
という形で連携プレイを行っています。

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カヤハゲの中腹にこんな鐘が設置されていました。熊よけ? 恋愛成就?

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カヤハゲ目的地点に到着。

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後からやってきた高知農業高校の若人たちも今到着。

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みんな思い思いの場所で休息&お弁当タイム!

歩きながらではとてもお話を聞く余裕がないので、
ここぞとばかりにインタビュータイム!

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伊野商業高校教諭・谷川さん
「去年、工科大の研究室で学ばせていただき、山がシカに荒らされていることをはじめて
知りました。去年は高校生を2人連れてきて作業もさせてもらいました。
このシカ問題に関して、商業高校で何かできることがないかを考えています。
例えば、シカ肉の商品開発を行い販売するとか。地元に貢献すること、高知の資源で
高知の経済を回していくことをゆくゆくは考えていきたいですね」。

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春野高校・門田さん
「今、高校では農業を学んでいます。授業で林業体験に参加することがあり、
森に興味をもちました。将来大学に進んで、高知のありすぎる森林をどう活用して
いったら良くなるかを学びたいと思っています。その後は、自分は子どもに教える
のが好きなので、農業高校の先生になって、できれば森林関係のことを
子どもたちに教えていきたいです。今日は三嶺で、いろいろなことを学んで
帰りたいと思っています。よろしくお願いします」。

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門田さんに、かあちゃんの手作り弁当を見せてもらいました。
うまそうです!

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さてこちらはベテランのお二人。南国の中澤さん(右)と春野の前島さん。
「山はずっと登っています。2003年やったと思うけんど、坂本さんが
県庁正面玄関で三嶺のシカの食害について、写真のパネル展示をしているのを
見まして、あの三嶺が大変なことになっちゅうと思い参加しはじめました。
ほぼ毎年3回、参加しています。
昔はこのあたりは2mくらいの笹が生えていて、かき分けてすすまないと
行けないところでした。うっそうとして、道がわからなかった、
それが今、こんな状況でしょ、展望が良くなったとも言えるけど
このまま放っておいたらえらいことになります。自分らは山登りの
ネットワークをいかして、みんなで誘い合ってくるようにしています」。

もうひとり、写真・お名前はNGでしたが高知市の女性
「3年前に参加してから、お誘いが入るようになり今日参加させていただきました。
自分は自然の中に入っていくのが好きなんですが、こういう企画は山登りだけでなく
三嶺のために役立つ作業もあるので、有意義だと感じています。
環境問題には関心があり、植林作業にも参加したことがあります。
今日もマット敷き頑張りたいと思います」。

さてさて、お昼のあとは苦役、もとい! 有益な力作業が。

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マットを目的のポイントまで運びます。まずは若手農業高校!

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その持ち方は重いだろう。

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続いても若手。春野高校・門田さん。

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ベテラン中澤さん。余裕です。

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おっと二刀流。これは大丈夫なのでしょうか?
実はマットが雨に濡れていてかなりヘビーなのです。

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女性陣はマットを固定する杭などを運びます。

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切り立った斜面が見えてきました。

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目的地に到着! 防鹿ネットがあたりを囲っています。

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この下の急斜面にマットを敷いて行きます。

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おもむろにマットを敷き始める皆さん。登山口で振り分けた班単位での活動が続きます。

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1m間隔で杭を打ち、マットを固定していきます。

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軽めのハンマーを持ってきたせいか、打ち込むのがなかなか大変です。

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急勾配に座り込んで黙々と作業が続きます。

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このアングルで見るとまるでスレート職人さん。

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こちらも本職のような腰の入りよう。

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あっという間にだいぶ敷き詰められてきました。

のんびりしている人がいました。

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香南ケーブルテレビのお二人。
「のんびりしてませんよ〜。さっきまでドローン飛ばして空撮してました。
今、物部川流域のドキュメンタリーを作ってまして、今日もその一環で
取材にこさせてもらいました。物部の生活、環境、恩恵をテーマに
来年1〜3月に放送を予定しています。自分たちの地元なので、
今日のように山の保全に来ていただく皆さんには、本当に頭が下がります。
こういう地道な活動を、ぜひ番組で伝えていきたいです」。

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話を聞いているうちにだいぶ進みましたね〜。

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農業高校も笑顔で頑張ってます。
「今日は3年生16名が参加しています。特別実習の授業できました。
山登りがきつかったです。え、楽しいか? う〜ん…」。

はい、若者たち素直な感想ありがとう。
この急斜面感を出せないかと、いろいろ撮影してみました。

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まず上から。

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下から、う〜ん急斜面。

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横から、う〜ん急斜面 屋根な感じ。

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同じく横から。こちらの方は、ほぼ寝ながら杭を打ってます。

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一段落したところで、坂本さんにインタビューを行うメディアズ。
高知新聞さん(左)、香南ケーブルテレビさん(奥)、えこらぼ密着(私)。

坂本
「このカヤハゲでは、一昨年約2500平米、昨年約2000平米、今回が約1000平米
マットを敷くことができました。マットを敷くことで土砂の流出が止まり、
飛んできた植物の種が定着するというシステムです。
このヤシガラのマットは主に土木関係で使われている資材で、
植物の種や肥料が練りこまれているものが一般的ですが、
ここでは他の種を持ち込むのはよくないと考え
ただのマットのものだけを敷いています。

目標はシカの食害が顕著になる前、約15年前の三嶺の姿に戻すことです。
緑は確実に回復してきています。カヤハゲもみてのとおりススキが
たくさん生えてきています。今後はススキだけでなく、
さまざまな植物が生い茂ること、多様性のある緑の回復を
目指していきたいと思います」。

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本日のマット敷き作業もすべて終了。皆さん資材を片手に引き上げてきました。

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ほっと一息5班のメンバー。前列左がリーダーの安丸さん。
「三嶺の森を守るみんなの会に所属しています。もともと山好きで三嶺ももちろん
よく登ってました。食害は、最初はシカのせいじゃないと言われていました。
でも、自分たちは経験からシカが原因だと言って食害を防ぐ活動をしてきました。
このあたりは昔はやぶに覆われ、やぶこきしないと進めないところだったのに、
ものすごい被害状況でした。それも、皆さんのおかげで少しずつ回復してきています。
地元・物部出身のものとしても、とてもありがたい話で、自分もやれる限りは
活動を続けていきたいと思っています」。

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お話を聞いたあたりにも、シカのフンが転がっていました。

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協力して調査を行う高知大学の齋藤さん(左)と池田さん
「高知大理学部の4回生です。土砂流出の原因、メカニズムをカメラをしかけて
定点調査をしています。今日はヤマヌカボの根茎がどのような状態に
なっているのかを調べています」。

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この芝のようなのがヤマヌカボ。シカの食害にも負けずに生えていましたが、
ほとんどが表土とともに流出。一部残っている箇所の根の状態を調べています。

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さて帰路です。お、このあたりは脇にそれるとやぶこきできるくらい
ススキが生えてきてます。

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途中の尾根から見たカヤハゲ。見事にマットが敷き詰められていますね〜。

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万感の思いを込め我らが汗の結晶を再度ながめる面々。

さて、来た道は戻らねばなりません。2時間かけて。

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途中休憩ポイント。相変わらず皆さん座りません。

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最初に登った急勾配をおります。足が痛くて痛くて。

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登るときはつらくて気付かなかったのですが、あちこちにラス巻きのネットが
置かれていました。

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こんな小さな木の芽にもラス巻きです。愛を感じますね〜。

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無事登山口に到着。皆さんお疲れ様でした!

坂本さんに本日の総括をいただきました。

坂本
「今日はお天気も良く、作業も段取り良く行えました。みんな熱心でやりだしたら
早いんです。農業高校の生徒さんやJA土佐香美の若いパワーにも助けられました。
今朝も話しましたが、自分たちが策を施せるポイントは、この1000haの自然林の中でも
ごくわずかです。それでも、部分的にでも植物が残っていれば、そこがシードバンクの
役割を果たし、いつの日かシカが減った時には、植生を復元することができます。
今後は、今のネット内の植生を活かして、徐々にネットを広げるなどの取り組みを
行っていこうかと考えています。いずれは、ネットも補修が必要になってくるし、
捕獲圧を強める手立ても考えていかねばなりませんし、まだまだやることは
たくさんあります。今後ともご協力よろしくお願いします。

え、山の魅力ですか? そうですね、やっぱり苦労して登って
見晴らしの良いところに出たとき、景色が広がったときは感動的ですね。
三嶺はその中でも、豊かな植生の残るすばらしい山です。
今後とも、みんなで守っていきたいと思います」。

            ●

はい、「三嶺の森をまもるみんなの会」の活動。いかがでしたでしょうか?
ただ山に登るだけではなく、山の保全に繋がる有意義さと達成感が味わえる
とても充実した「山登り」が楽しめるボランティア活動だと思いました。
坂本さんのお話のように、この豊かな森を守る活動は、今後も地道に
続けられていきます。なんといってもたくさんのマンパワーが必要な作業。
活動の情報はえこらぼのイベント掲載や、メールマガジン「えこらぼだより」
にてご案内させていただきますので、機会がありましたらぜひご参加ください。
よろしくお願いいたしま〜す。

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もう一度、マウント三嶺。「また来るからね〜」。